夢のゴンドラ

 箱根にある「大和屋ホテル」のプライベート・ロープウェイです。谷底に宿があるので、宿泊客はこれに乗って下りてゆきます。自家用ではありますが、運輸省から許可を得ているちゃんとした索道であります。昭和26年に作られたロープウェイなので日本の索道の歴史の中でも古い方に入ります。観光用ではないので、基本的には宿泊客、もしくは日帰り入浴のお客さんじゃないと乗れません。一支索、ニえい索で搬器は一台です。昭和レトロなロープウェイを求めている自分には、ここは小規模ながらもまさに「コレだっ!」という感じでした。

 箱根登山鉄道「宮の下」の駅を下車、その駅からすこし坂を下りてゆくとロープウェイの看板が見えます。そこをさらに下りてゆき「大和屋ホテル」看板が見えたら左がロープウェイの駅です。

 上の通りにある「大和屋ホテル」の案内所の人に声をかけられたので、下の駅に着くと「○○様ですね、ハイとうぞ!」と宿泊客である事を把握していた。中に入るとまるで林業の作業場のような雰囲気。まあ決してキレイとは言いがたい駅でしたが、またそこが自家用っぽさと時代を感じてとても魅力的でした。

 乗り心地は見た目よりもはるかに快適でした。高低差60メートルだそうです。わりと急勾配です。下の駅もかなり年期が入った感じがしますね。ちなみに歩いて下りる遊歩道もあるそうです。まれに高所恐怖症のお客さんは歩く方を選ぶそうです。自分はロープウェイに乗りに行くと2〜3往復しないと気がすまないのですが、ここは宿へアクセスする為のものなので、来た日と帰りの一往復しか乗れないと思い、搬器の窓にへばりついて真剣にビデオを撮っていた。下の駅に着いたら従業員のお兄さんが「ず〜と撮ってるからテレビ取材の撮影がはいってると思いましたよ」って言われた。自分がロープウェイ好きだと言うとそのお兄さんがいろんなお話しをしてくださいました。

 搬器は5人乗りです。とてもコンパクトな感じで、天井が低いのでかがんで中に入ります。従業員の方に伺ったら、この搬器は4代目だそうです。といってもかなりレトロな感じがして最高です。この丸みをおびたデザインがもうたまりません。とってもカワイイ!新しい搬器では絶対に出せない魅力に溢れていると思います。そして下の駅の待合室。朝のチェックアウトの頃にはけっこう混み合います。

 駅を出ると宿へとつづくなだらかな坂道になっています。この駅の横からロープウェイの様子を眺める事ができます。ちなみに、ある看板には「自家用ロープウェイ」、宿のタオルには「自家用空中ケーブルカー」、搬器には「夢のゴンドラ」と名称が統一されていないのもなんかおもしろいです。「大和屋」がある同じ堂ケ島温泉には対星館という自家用ケーブルカーがある温泉宿があるので、お客さんがそちらと混同しないようにロープウェイと表記するところもあるのではないかと察します。

 駅から坂道を下りてくると「陸の竜宮」とでも呼びたくなるよな建物の全景が見えてきます。  宿の入口側からみた光景。まるでお庭の中の一部のようにロープウェイの駅が見えます。

 部屋に案内され浴衣に着替えようとしたらロープウェイのデザインじゃないですか。やっぱり「大和屋ホテル」のシンボルなんですね。もうロープウェイ好きにはタマリマセン。  そしてお茶うけのお菓子がこの宿オリジナルの「ゴンドラ煎餅」というやつで、ゴンドラの模様になっているじゃないですか。もうこれ以上喜ばせないで!

 昭和26年からロープウェイを動かしているそうですが、今まで無事故で4回表賞されたそうです。「箱根ロープウェイよりうちのが古いのよ。だから箱根ロープウェイを作る事になった時、参考にしたいとうちに見学にきたぐらいなんだから...」と宿の女将さんがエピソードを話してくださいました。

 なごり惜しいですが帰りのゴンドラに乗り込みました。「大和屋ホテル」に泊まった記憶の一部に、このロープウェイに乗った事はみんな忘れないでいることでしょう。

 自分がおとずれた時は紅葉が色づき始めた頃でしたが、それでも綺麗でした。夏は緑に、秋は紅葉の中に、この赤いゴンドラの姿が印象的に目に写る事でしょう。「大和屋ホテル」は昭和の観光温泉宿の雰囲気がそのまま残されていて、今となっては貴重な空間だと思います。平成の現在から昭和へタイムスリップしたようなこの宿をつなぐロープウェイはまさに「夢のゴンドラ」である。

(2007年11月15、16日)

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