「アサヒグラフ」の奥摩耶ロープウェイ

 「アサヒグラフ」1955年(昭和30年)8月31日号に開業まもない奥摩耶ロープウェイの記事が載っています。

「涼線の空中散歩 神戸・奥摩耶ケーブル」

『神戸市を眼下に見おろす摩耶山に、この夏から、全長八二六メートルの奥摩耶ロープウェイができた。もの珍しさは勿論のこと、折からの猛暑を避けてここに涼を求めようという遊覧客が、連日押すな押すなの大さわぎ、付随設備などあわせて一億円ばかり注ぎこんで”大丈夫かいな”と危んでいた市当局を、すっかり悦に入らせてしまった。 旅客輸送のロープウェイとしては、岐阜金華山、奥多摩三峰につで戦後三番目、ロープの長さは三峰山の一・七キロには劣るが、情緒ゆたかな神戸市の、しかも夜景が楽しめるというのが一番の強み。市の中心三宮から、バス、ケーブルと乗りついでも三〇分そこそこで、海抜約八〇〇メートルの山頂に達する近距離だから、神戸市が大いに宣伝するのも当然である。 ロープウェイは、深さ一〇〇メートルあまりの針葉樹林の谷を二つもわたり、ヘリコプターさながらの空中旅行を四分二〇秒ばかり楽しませてくれる、七月十二日開通して以来、一日に平均四〇〇〇人もの人間をはこびあげたというから、まことに、”エラいもんや”である。』以上本文から。

 開業の頃の様子やがよくわかる貴著な資料である。表紙の写真が素晴らしい。車掌さんがドアを開けて身をのり出しているのがスゴいです。別の項に載せた「世界画報の背炙り山の空中ケーブル」の表紙でも同じように車掌さんがドアを開けていますが、こちらは満員のお客さんが乗っているのにドアを開けている。

『ロープウェイの運賃は片道大人五〇円 子供二五円 ”もっと安く”という声もあるが 市当局は車体は日本一で これを支えるロープは英国製の直径五二ミリものだと大自慢』 『非常にそなえて 車内には電話機と応急下降機が備えられ 車掌さんの操作で ズック製のバケットが スチールワイヤーでつり下げられる仕組み』 『定員は女の車掌さんを含めて二六名 しかもフルに動いて六分間隔の運転とあっては輸送力はしれたもの 運び切れない行列は 夜に入ればさらに増えるという 約一ヶ月の間に神戸市の収入は六〇〇万円にのぼった』

『山頂からは 丹波 薩摩 河内 摂津 山城 和泉 紀伊 淡路の八州が一望の中に収まり 夜はさながら星くずの空を見下すようだ 展望台に掬星台としゃれた名ついている』 『これがロープウェイを動かす機械室 鋼鉄のワイヤーにひかれた車輪が メインロープの上を回転して移動するようになっている』

『起点の摩耶駅(左)と山頂駅(右)との間は二つの谷をへだてて直線距離で826メートル 標高の差はおよそ220メートル』

(2010年9月16日)

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